<臨床心理学> 発達障害を知る

    2017.07.24.Mon.23:53




    このブログでも、発達障害については度々触れてきました。
    全体をまとめた記事としては、子どもの臨床② 発達障がいDSM-ⅣからDSM-5への変更点② 広汎性発達障害と自閉症スペクトラムを書いていますので、そちらを参考にしてください。


    試験勉強をされている皆さんは、
    それぞれの障害の特徴をある程度知っていると思います。
    しかし、実際に相談援助をする際、
    相手のクライエントは、
    あくまでも子どもについて自分が困っていることを話すのであって、
    障害の特徴だけを取り上げて話してくれるわけではありません。

    よく聞く相談内容としては、

    「勉強ができない」
    「落ち着きがない」
    「コミュニケーションがうまくいかない」

    といったことが言われやすいかと思います。
    さて、こうした相談を母親から受けた際に、
    それらの問題をどのような視点が必要になってくるのでしょうか。

    今回は今までよりももう少し踏み込んで、
    実際に発達障害をアセスメントをする際に、
    どのような視点が必要になってくるのかを考えていきたいと思います。




    ①「勉強ができない」をどう見るか

    「うちの子、勉強ができないんです。学習障害でしょうか?」

    勉強ができない=学習障害
    と捉えている方は多いです。

    しかし、「勉強ができない」を主訴にしている子どもが、
    本当に学習障害であることは割合少ないです。
    それよりも、知的障害や自閉スペクトラム症などがベースとなっている場合の方が多いです。

    「勉強ができない」
    を掘り下げていくときの視点で重要なのは以下の点です。

    1.どのような勉強ができないのか
    →国語だけなのか?勉強全般なのか?
    知的能力全般に困難がある場合は、LDよりも知的障害が疑われます。

    2.「テストの点数が低い」のか「勉強に集中できない」のか
    →勉強をしてもテストの点数に繋がらないのか、勉強に取り組むこと自体ができないのかでは意味合いが大きく変わります。
    知的な遅れがあったりLDの場合、毎日深夜まで何時間も勉強していてもなかなか解けるようにはなりませんし、
    ASDの場合にはそもそも勉強に集中して取り組むこと自体できていないこともあります。
    「勉強ができない」というのがどういう意味なのか、よく掘り下げて聞くことが重要です。

    3.どのような場面で勉強できないのか
    →「家では勉強に集中できるのに、学校だとできない」といった場合もあります。
    そうした場合には、「どうして家ならできるのか?」「家と学校とではどのような違いがあるのか?」といった点を明らかにすることが、
    勉強に取り組みやすい環境づくりのヒントになることも多いです。



    ②「落ち着きのなさ」をどう見るか

    受験生の方の中には、「座っていられない」「落ち着きがない」と聞くと真っ先にADHDを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
    しかし、実際には衝動性が抑えられずに落ち着きがないように見える場合だけでなく、
    状況理解の乏しさから落ち着いて座っていられない子も多いです。
    そのような場合はADHDよりもむしろASDが疑われます。
    行動と診断を1対1の対応で覚えるのではなく、その行動の背景を考えることが重要です。



    ③「コミュニケーションの問題」をどう見るか

    最近(というほど最近でもないかもしれませんが)、「コミュ障」と「アスペ」という言葉をセットでよく目にしますね。
    たしかにコミュニケーションの問題は自閉スペクトラム症の中核的なものであり、
    知的能力に問題がない場合にはアスペルガーの診断になる方も多くいます。
    また、こだわりや感覚過敏が無い場合には、DSM-Ⅳで特定不能のPDD(PDD-NOS)とされていたものが、DSM-5では、神経発達障害の下位分類としてのコミュニケーション障害として扱われることも考えられます。
    いずれにせよ、発達障害からくる”本人のコミュニケーションの問題”と捉えられることが多いです。

    しかし一方で、虐待児なども発達障害児に似通った行動を取ることも知られています。
    発達障害児がその行動特性から虐待を引き起こしやすいという側面と合わせて考えると、
    コミュニケーションの問題があるというだけで安易に発達障害と判断することは危険です。
    親子関係や家庭環境の問題が中核にある場合には、
    まずは情緒障害の部分に焦点を当てて支援を考える必要があるでしょう。

    「感情のコントロールができない」ことを主訴とする親御さんも多いですが、
    これもコミュニケーションの問題と同様の考え方が必要です。
    たしかに発達障害を持っていると癇癪を起こしやすいといったこともありますが、
    情緒的問題を抱えている子どもも同じように感情コントロールがきかない場合があります。
    たとえば、周りにすぐ激昂するような大人がいたら、
    子どもはそれを見て「怒れば自分の意見が通る」と無意識的に思ってしまいます。




    さて、今回は、よくある相談内容をどのように掘り下げて見立てをしていくかについて取り上げました。
    大学院の入試でも、事例をどのようにアセスメントするかといった問題はよく出題されます。
    どのような内容であっても、症状(行動)と障害を対に覚えるだけでは不十分だということが感じられたのではないかと思います。


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    <臨床心理学> アセスメントと視野

    2017.06.11.Sun.20:50




    突然ですが、あなたはある学校のスクールカウンセラーをやっているとします。
    一人の男の子が父親から連れてこられました。
    父親、教員、本人との面接を通して、以下の情報が得られました。
    さあ、アセスメントしてみてください。



    <Aさん>

    年齢:12歳(小学6年、男児)
    家族構成:父(41)、母(39/抑うつ状態)、弟(9/PDD)
    来談経路:学校担任からのすすめ
    主訴:不登校

    [得られた情報]
    ・今年5月のGW明けから学校に行けなくなった。
    ・本人は「頭が痛いから学校に行けない」と言っている。
    ・小学校低学年の頃から、時折友人関係のトラブルを起こすことがあり孤立しがちだった。
    ・偏食がひどく、学校では給食を残すことが多い。
    ・学業成績には問題なし。
    ・ひどい手洗いが見られ、家では家族にも手洗いを強要する。
    ・昼夜逆転状態の生活を送っている。
    ・弟は3歳でPDDの診断を受けている。
    ・父親は登校を拒否するAさんを強く叱責していた。学校側への不信感も抱いている。
    ・母親は本人が休みたいのならば休めばいいと考えている。弟の世話に手を焼いており、なかなかAさんと話す機会はない。父親との意見対立もあり、徐々に抑うつ的になっていった。
    ・学校の先生が母親へ「一度SCに相談へ」と伝えたところ、父親が「この子はおかしい。学校に行けるように治してやってほしい。」と本児を連れて相談室へやってきた。





    さて、あなたはこの事例をどのように見立てましたか?
    あなたはSCとして、この親子に対してどのような介入をしますか?

    主訴は不登校ですが、
    脅迫症状も出ていますし、生活の乱れもあります。
    父親の叱責、両親間の意見対立など、家族関係の見直しも必要でしょう。
    家族側と学校側との摩擦もあるかもしれません。
    また、友人トラブル、偏食、家族歴などから、発達障害も疑われます。


    どの切り口から、どのような介入をするかは、
    それぞれの臨床家の個性と言ってもいいかもしれません。





    大学院受験を目指している方の中には
    「ASDといったら○○の症状」
    「強迫性障害といったら☓☓の介入法」
    などのような覚え方をしている方もいるかもしれません。

    しかし、実際の事例では、そのような単一的な答えはなく、
    様々な問題が複雑に絡み合っている場合がほとんどです。
    心理学的な介入だけではなく、医療の介入が必要であればリファーすることも視野に入れなければいけません。

    今回の事例に関しても、
    まだまだ出ていない情報がこれから出てくるかもしれません。
    反対に、もっと絞られた情報だけで介入方法を考えていかなければいけないパターンもあります。
    いずれにせよ、「今持っている情報が全てではない」ということを常に考えておくことも大切です。


    アセスメントを考える際、
    広い視野を持っておくことの重要性を感じてほしいと思い、
    今回はこのような記事を書きました。

    実際の臨床ではアセスメントは必ず行っていくことになるものですし、
    大学院入試でも、事例から見立てを書かせる問題を出しているところはあります。

    今からでも、
    複雑な問題を広い視野で捉える練習をしておくことが大事なのではないでしょうか。


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    <臨床心理学>コミュニティ心理学

    2017.03.20.Mon.11:20




    「臨床心理学」と言うとき、皆さんはどんな場面をイメージするでしょうか。

    もしかしたら、まずパッと浮かんでくるのは、
    密室で1対1でお話をするような、
    古典的な心理療法かもしれません。

    しかし、現在では、臨床心理士は教育、医療、産業、福祉など、様々な領域で、
    様々な職種の人と協力しながら働いていることがほとんどです。
    コラボレーションコンサルテーションといったことも重要視されるようになってきました。

    個人で行う心理療法を磨くことも重要ですが、
    より広いコミュニティという視点で問題を捉えることも必要です。

    今回は、臨床心理学におけるアプローチの1つとして、
    コミュニティ心理学の考え方を取り上げたいと思います。




    【社会の4つの次元】

    コミュニティ心理学では、その「コミュニティ」として4つの水準を想定しています。

    1.個人:個人心理療法
    2.小集団(グループ):グループ療法
    3.組織:コミュニティ・アプローチ
    4.制度:コミュニティ・アプローチ


    近年、精神障害への介入の視点は、
    個人心理療法からコミュニティ心理学へと移行してきています。

    実際に臨床心理士が介入する際には、
    それぞれのコミュニティ水準に合わせたアプローチを行うことが重要です。

    個人に対しては心理療法が適用できますし、
    グループに対してはSSTなどのグループ療法や、セルフヘルプグループも考えられるでしょう。
    さらに、組織や制度に対して介入する際には、
    他職種の人々とのコラボレーション・コンサルテーションが重要になってきます。




    【予防】

    コミュニティ心理学では、予防という観点を大切にします。

    「予防」と聞くと、問題を未然に防ぐといったイメージが強いのではないでしょうか。
    しかし、実際には、問題が起こってからも、それを深刻化・長期化・慢性化させないための働きかけが必要になってきます。
    そこで、コミュニティ心理学では、以下の3つの予防の水準が考えられています。


    一次予防:
    健康な人への予防活動。新たなケースの発現率を減らそうとする介入。
    SSTや心理教育などのプログラムがこれに当たります。

    二次予防:
    問題が深刻化しないように、早期発見・早期介入する。
    危機介入などがこれに当たります。

    三次予防:
    問題の発現後の介入。二次障害や再発を防ぐ。
    リハビリテーションやリワークといった支援がこれに当たります。


    日本では、一度精神病院に入院すると、
    病状がよくなっても退院、社会復帰が難しいという側面があります。
    三次予防では、こうした患者の施設化を防ぎ、
    できるだけ地域で暮らしていけるよう支援する脱施設化の方針を掲げています。




    コミュニティ心理学は、近年特に注目されてきているアプローチ観点です。
    今回の記事では取り上げませんでしたが、
    教育援助におけるコミュニティ・アプローチや、
    ブロンフェンブレナーの人間発達生態学モデルに代表されるシステム・アプローチなども勉強しておく必要があります。

    以下の書籍はコミュニティ心理学全体を網羅しており、
    初学者の方にも分かりやすく書かれています。

    臨床心理士の働き方を知るためにも、
    ぜひ読んでみてください。



    臨床心理学をまなぶ5 コミュニティ・アプローチ




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