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ふつうの「共感」と、心理学の「共感」


 臨床心理学の世界では、共感がとても大切にされます。しかし、「共感が大切である」ということを、知識で分かっていても、それが実際にどういうことであるのかについてよく知っている受験生の方は、あまり居ないようです。


たとえば、

友達の愚痴を聞いていて、「わかるー!それほんと嫌だよねー!」と言ったり、
音楽を聞いて、歌詞が自分と重ねて苦しくなったり、
ドラマの主人公の気持ちになって考えるてみたり、
漫画を読みながら、「私だったらこうするなー」と思ったり。

普段、私達は、これらの感情や思考の動きを、「共感した」などと言います。

しかし、心理学で言う「共感」とは本質的に異なるものです。

もしも、あなたがクライエントに対して、「うんうん、わかるよ。」と言ってあげることが共感であると考えているのなら、それは大きな誤りです。
あなたはクライエントの何を分かっているのでしょうか。


今回は、一般的に言われる「共感」と、臨床心理学の世界で言われる「共感」の違いを考えていきたいと思います。



【共感と似ている言葉】


 まずは、「共感」に似ている言葉として、「同情」と「感情移入」を挙げて、共感とのちがいを見て行きたいと思います。



①同情

 同情は、相手が持つネガティブな感情に対して、自分自身の感情を持つことです。たとえば、不幸な生い立ちの人に対して、「かわいそう」と思ったり、「助けてあげたい」と思ったりするのが、これに当たります。



②感情移入

 ロジャーズもカウンセラーに必要な態度の1つとして、「感情移入」を取り上げていますが、ここでは、一般的に使われる日常語の「感情移入」に触れていきます。
 感情移入とは、他人や、自然、芸術などに対して、”ひとりで勝手に”自分の感情に投射することです。感情移入は、ひとりで行えるものなので、相手が人じゃなくても、物に対してもできます。

 「鈴の音が寂しく聞こえる」のは、鈴の音が寂しいと感じているのではなく、自分が寂しいと感じているというのは分かるでしょう。しかしこれが、相手が人となると、相手が感じていることなのか、自分が感じていることなのか判断できなくなってしまう人がたくさんいます。「相手の言葉が寂しく聞こえる」とき、ついつい「相手が寂しいと感じているんだろう。」などと思ってしまう人がたくさんいます。






【わたし と あなた】


 さて、「共感」と「同情」、「感情移入」のちがいはわかりました。次に、一般的な「共感」と、心理学の「共感」のちがいを見ていきます。

 一般的な「共感」と心理学の「共感」の、最も根本的な違いは、「わたし」と「あなた」を、区別しているか否かです。


 一般的な「共感」は、基本的に、「わたし」と「あなた」を同じものとして扱っています。上の例で言えば、友達の愚痴に対して、「わかる」と言うということは、「わたし」が「あなた」の気持ちになれるということです。歌詞と自分を重ねてしまうのは、歌詞の中の人物を、自分と混同するからです。ドラマの主人公や、マンガのキャラクターについても同じです。

 一方、心理学の「共感」では、「わたし」は「わたし」で、「あなた」とは違う、という考え方を大切にします。友達に愚痴を言われても、「わたし」は「あなた」ではないので、その辛さが分かるわけが無いのです。「わたし」には「わたし」なりの性格や特徴がありますし、「あなた」には「あなた」なりの性格や特徴があります。そのため、もしも「わたし」が「あなた」と同じ状況になったとしても、同じように感じるかは分かりませんし、同じように考えるかも分かりませんし、同じように行動するかどうかも分かりません。つまり、心理学の「共感」は、「共感」であるにも関わらず、クライエントのことが「わからない」という前提に立っているのです。




【心理学の共感的理解とは】

 「共感」という言葉は、もともと、「感情の共有」を意味します。相手が苦しいときに、「相手が苦しい」と理解するだけでなく、自分も苦しくなる体験です。共感の感覚としては、「まるで◯◯のように感じる。」という表現が使われたりしますね。

 先ほど、心理学の「共感」は、クライエントのことが「わからない」という前提に立っていると言いました。では、セラピストはどのようにしてクライエントに共感できるのでしょうか。

 クライエントの感情を共有するということは、セラピストが、クライエントの気持ちを限りなく正確に汲み取るということになります。「まるで◯◯のように感じる。」という言葉は、「完全に◯◯になることはできないが、限りなく◯◯に近い感情になる。」という意味です。一瞬たりとも、セラピストとクライエントの感情は混じり合わないのです。クライエントの感情に巻き込まれずに、自分の感情をできるだけクライエントのものと近付けていく。これが非常に難しいからこそ、臨床心理士は専門家であるのです。

 クライエントの感情に近づくためには、客観的な立場から、クライエントのことを知らなければいけません。だから、カウンセリングルームでは、クライエントに話してもらうんです。つらいことも、苦しいことも、思い出したくないようなことも、全部話してもらうんです。一番大切なことは、「あなたのことがわかる。」と伝えることではなくて、「あなたのことを知りたいから、もっと教えてください。」という姿勢です。

 簡単に、「わかるよ。」と言ってしまう人がいます。でもそれは、多くの場合は「わかったつもりになっている」だけなのです。性格も考え方も、生活環境も全くちがう人が、そんなに簡単に分かるわけがないのです。これまでどのような環境で生きてきたのか、家族との関係はどうなのか、どのような経緯を経てそのようになったのか、どのような地位・立場なのか、、、相手のことをわかるためには、それに関する様々なことを知っていなければなりません。今持っている情報がすべてだとは思ってはいけません。









 友達の愚痴程度であれば、まあ、「わかるよ。」と話しても良いのですが、カウンセリング場面ではそうはいきません。相談室や精神科に来るようなクライエントさんというのは、本当に複雑な経緯を持っている方がほとんどです。一発でわかることはありません。

 共感的理解の本質は、「わたし」と「あなた」の完全な分離です。このことがしっかりと身についていないと、転移・逆転移が起こってしまいます。心理学の「共感」は難しいものです。臨床心理士を目指す皆さんは、茨の道を突き進むという覚悟を持って、クライエントさんと対峙していってください。

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